Empreinte de chameau🐪ラクダの足あと
🌴モーリタニア🌙 砂漠を旅する🌴 No.１９ 🐪加藤智津子
② 「すべての ひとに 石が ひつよう」ー 砂漠で見つけた全球凍結の石
絵本「すべての ひとに 石が ひつよう」では「特別な石」を見つけるための１０のルールとして以下のように書かれている。
いつでも 石の においを かぐ。
石は 自分だけの においを もっている。
においを かいだだけで
その石が
地球のなかから きたものか
海から きたものか
何百万年にもわたって
毎日 毎日 風と 太陽に さらされていた 山から きたものか
かぎわけてしまう 子供たちが いる。
大人たちには そうしたことが わからない。
におい、この世界で「におい」のないものはないような気がする。
極度に乾燥した暑い国に降り立ったときの、独特の空気の「におい」が、ふと鼻をかすめるときがある。
私の「特別な石」からも、それに似た「におい」がする。
「すべての ひとに 石が ひつよう」
バード・ベイラー著／ピーター・パーナル画 河出書房新社
Photo：モーリタニア ティリス・ゼムール州
６億年まえの海底が隆起した丘陵、地元ではなぜか「白い山」と呼ばれているよう
私の「特別の石」とは、ヌアディブからやってきたモーリタニア鉄道が、北に向きを変えるシュームの先で出会った。
一帯は鉄道が走っている台地よりも高く、斜面には砂が積もって砂丘になっている。
その砂丘をイッキに４WD車で上がると、平らな台地が広がり、幾つかの丘陵が見えてくる。
しばらく走ると、砂漠の色が淡いピンクに変わり、他とは少し違った丘陵に気がつく。
青味がかったグレーの四角い石が不揃いに並び、小石が転がり、その上に砂が積もっている。
標高は４３０メートルほどだが、プロミネンスは１００メートルもない。
ドライバーは「Chizukoさんの山」（＊１）と呼ぶくらいに、私はいつもやって来る。
モーリタニアは先カンブリア時代（＊２）の地質が多く存在する国で、なかでも、ここはさほど古くはないが、地球で起こったことを教えてくれる場所。
おおよそ６億年まえ、地球は海洋が1kmを越える厚さの氷に覆われ、赤道までが真っ白に凍りついた全球凍結（スノーボールアース）（＊３）の時代が長い間続いた。
その後、火山の噴火や、大気中に溜まった二酸化酸素で温暖化が進み、全球凍結は終わることになる。
地球の気温はマイナス５０度から、５０度の世界になり、大陸の氷河が溶け始める。
氷床も溶け、大陸氷床が切り離され、氷山になって海へと流出する。
沖合に流されていくうちに氷は溶け、氷山に取り込まれていた大陸の岩石片や石が海底に落ちていく。
その海底が隆起してできたのがこの丘陵だ。
氷山に運ばれて海底に沈んだ石は、丘陵の青味がかったグレーの石のなかにもドロップストーンとして含まれている。
私の見つけた「特別の石」は「オルソクォーツァイト」、石英でできた石で、氷山が運んだなら６億年以上まえからあったことになる。
絵本のように「地球のなかから」、「海から」、そして「毎日 毎日 風と 太陽に さらされていた山からきたもの」、全てに当てはまる石ではないだろうか。
（＊１）「Chizuko さんの山」
モーリタニアのドライバーは日本人に「さん」をつけて呼ぶ
（＊２） 先カンブリア時代
肉眼で見られる大きさの硬い殻を持った生物の化石が産出される５億４,１００万年前の約４０億年間
モーリタニアでは、２８、２９億年まえ以降の地質が北西部を占めている
（＊３） 全球凍結（スノーボールアース）
モーリタニアは６.１億年（±５,５００万年〜±６,０００万年）以上まえに、２度の全球凍結イベントがあった（2005年 レポート）
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砂漠を走っていると、露出した全球凍結の痕跡をよく見かけるが、たまたま野宿地が氷河堆積物の丘の脇だったこともある。
野宿は、強風を遮る大きなアカシアの木か、小高い丘があり、サソリや蛇がいなさそうな砂地であることが望ましく、まさにうってつけの場所だった。
ここの堆積物は丸みを帯びたオルソクォーツァイトは見当たらなく、含まれていた多くは氷河作用で氷床から剥ぎ取られたような岩石片ばかり。
フラットになった氷河堆積物の丘に立つと、小さな砂丘がまるで波のように遠くまで続き、海を思わせた。
しかも、強風によって舞上げられた砂でかすみ、荒ぶる海にも見えた。
私は手頃な石（見た目よりも重い）を運んできて、椅子にして座り、まずはお茶を飲んだ。
６億年まえ、海底に沈んだ石と海底の堆積物でできた椅子で！