Empreinte de chameau🐪ラクダの足あと
🌴モーリタニア🌙 砂漠を旅する🌴 No.6 🐪加藤智津子
「サハラの目」:ゲルブ・リシャット(Guelb er Richat) - ②
2度めの「サハラの目」 ゲルブ・リシャットへ向かったのは冬の日。
モーリタニアの中央部に位置するアドラル州は山地を有し、急峻な断崖が砂漠を南北に二分している。
州都アタールから東のゲルブ・リシャットまでのびるアドラルの山(シンゲッティ台地)で、南側はワラン大砂丘、北側はマクティール大砂丘だ。
普通、世界遺産のシンゲッティ、ワダンへの観光は道路のある南側ルートを使う。
しかし、もう一方の北側ルートはピストで集落もほぼなく、野宿になるが、さまざまな砂漠が楽しめる。
たまに、「このあたりでラクダを見なかったか」とすれ違う車から聞かれることもあるが、誰とも出会わないときの方が多い。
親しいノマド(遊牧民)家族のハイマ(テント)があれば、彼らを訪ねる。お茶をごちそうになり、女性たちの拾い集めたヤジリを買ったりもする。
そうして、たどり着くのが「サハラの目」の上瞼の部分にあたるエル・ベイヤード(El Beyyed)。
山々や砂丘に囲まれ、地下水の湧くオアシスで、季節によって移動してくるノマドの集落になっている。
そんなエル・ベイヤードでは前期旧石器時代(Acheuléen文化)と新石器時代が存在した証の石斧やヤジリを見つけることもできる。

Photo: モーリタニア アドラール州 Tazaz Mont (タザズ山).から「ゲルブ・リシャット」、「サハラの目」を見下ろす
エル・ベイヤードから、ゲルブ・リシャットへはタザズ(Tazaz)山を超えることになるが、厄介な坂道がある。
大きな石が積み重なった車の幅だけの坂道で、それらがタイヤの動きとともにガラガラと音をたてて動き、車体の高い4WD車の底にも尖った石がガンガン当たる。ときに、その石で滑ることもある。
上り坂なら多少、車はバックするだけですむが、下り坂で滑ったら一気に回転しながら落ちていくかもしれない。
いつも緊張する石山の坂道だ。
そうして、上までゆっくりと上っていく。
砂漠の山の多くはプラトー(plateau)で、石塊の平原になっている。小さいが、タイヤのためには良くない突き出た石の上を1時間半以上走行する。
走り続けて、ようやくゲルブ・リシャットを見下ろす崖淵に着くと、同心円を形成している幾つもの丘陵が霞んで見えた。
慎重に坂道を下り、そんな丘陵の脇を通過して「サハラの目」の中心部に到着する。
しかし、オーベルジュは無人で、何年間も使われていないように思えた。
10年ぶりに「サハラの目」の真ん中の山に登ることにした。
以前よりも砂が積もっていたので、出ている石の上に足をかけて登った。
1度めのときには気づかなかったさまざまな石が、目に入ってくる。
頂上の石に腰をかけ、黒っぽい丘陵がどこまでも続いているさまを見た。
かなりの上空からではないと、丘陵がカーブを描いているのを確認することは難しそうに思える。
そのとき、ふもとからドライバーが私を呼んだ。
そう、この静寂、、、。
風もない。あまりにも静かすぎる。
見渡す限り、ラクダもヤギも、飛ぶ鳥すらもいない、生き物の存在が感じられないのだ。
この広い空間にふたりの人間しかいない。
私たちは退散することに決め、砂砂漠を経てウアダンへ向かうことにした。