Empreinte de chameau🐪ラクダの足あと
🌴モーリタニア🌙 砂漠を旅する🌴 No.8 🐪加藤智津子
砂漠の愛すべき生きもの:サハラのスナネコ
ネコを飼うノマド(遊牧民)は多い。
そのネコたちは犬のように家畜を守るという使命はなく、ハイマ(テント)のなかで愛嬌を振りまいていることが多い。陰ではトカゲやサソリと格闘しているかもしれないが、、、。
しかし、砂漠には「もともと棲んでいたネコ」がいる。
Photo: モーリタニア アドラール州 シャール
ノマドの飼いネコ、 足が3本だった
「最近、砂漠のネコがご飯を食べにくるのよ、うちのネコたちと一緒に食べているの」
いつも泊まるアドラール州の宿の女主人が言う。
そして、その日、、、、日没後の、まだ薄明るいなか、テラスで夕食をとっていたときだった。
三角の大きな耳に大きめの顔、ずんぐりとした四肢、あきらかにイエネコとは異なるネコが、長い尻尾を水平に伸ばして目の前を通り過ぎ、敷地から出て行った。
モーリタニアの短毛の飼いネコに比べたらふっくらと見える。
砂漠のネコ、スナネコだった。
一瞬のできごとで、カメラを手元に置いておかなかったことが悔やまれた。
スナネコ(Chat des sables)は哺乳綱、食肉目(Carnivora)、ネコ科(Felidae)、ネコ属(Felis)で、種はスナネコ。
1853年からフランス政府により組織されたアルジェリアの科学探査で、博物学者の司令官、Victor J.F. Loche は哺乳類や多くの鳥類の目録を作成する。
そのとき、彼の指揮下にあった将校によって、スナネコが発見された(1858年)。
博物学者のLoche、及びその発見者、Jean-Auguste Margueritte に敬意を表し、古典ラテン語のネコ(Felis)から「Felis margarita Loche, 1858」 という学名がつけられた。
スナネコは降水量がわずかで、寒暖差の激しい砂漠でも生息可能。
砂漠を好み、植生の少ない砂砂漠から樹木がまばらにある岩石砂漠で暮らす。
平たく幅の広い頭、大きな耳、砂漠と同化した色の体毛は密で、斑点や縞があり、前脚上部に、アームバンドのような黒いラインが目を引く。
特に冬毛はネコを大きく見せるが、同じネコ属で最小のクロアシネコ(南アに分布)に次いで小さい。
足裏は黒く長い体毛で肉球まで覆われていて、高温と低温の極端な環境下(58℃ 〜 −5℃)の砂漠を容易に移動することができる。
行動範囲は広く、一晩に10キロ移動した記録があり、基本、夜行性。
食性は肉食。生き物の非常に少ない砂漠では、見つかるほぼすべての生き物がスナネコの捕食の対象となる。
発達した感覚器官(特に聴覚)、知能、運動能力を備えた全方位ハンターとして、昆虫類、トビネズミ、ウサギ、鳥類、爬虫類等を捕食する。
猛毒の「サハラノツノクサリヘビ」もスナネコには食用だ。前脚と爪で連打し、弱ったところを喉に噛み付き、強靭な顎で斬首してから食する。
そんなことから、遊牧民の間では益獣、「蛇ハンター」としても知られている。
スナネコは IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで「準絶滅危惧」に分類されていたが、2016年から「軽度懸念」LC(Least Concern)に分類し直された。
それでも、滅多に見かけることはない。
最近では、2019年5月に西サハラ(サハラ・アラブ民主共和国)での観察が報告され、モーリタニアではダフレト・ヌアジブ、タガン、アドラールの各州で観察登録がある。
ちなみに、モーリタニア、アルジェリア、チュニジア、ニジェールではスナネコの狩猟が禁止されている。
スナネコは340万年前頃、ネコ属(Felis)の共通の祖先から分岐したといわれる。
その後、更新世(ほぼ氷期)に、アフリカへ渡り、過酷な砂漠のなかで進化して生きてきた。
単独での狩を可能にする鋭い感覚、反射神経、筋力、しなやかさは まさに「砂漠の王」と呼ばれるゆえんだ。
それから、私はその宿に泊まるたび訊ねるが、いつも答えは同じ。
「スナネコ、あれからもう現れないのよ」
砂漠の移動中では一度も見たことのないスナネコが、なぜ人の住むところへやってきたのか、不思議に思うとともに、ほんの一瞬でも見ることができたのは幸運だったかもしれない。
ある海外の雑誌にスナネコが紹介されていた。
サハラ砂漠のかまどのなかで 毛皮のコートを着て進化したスナネコは
世界で最も小さな猫のひとつであり、最も知られていない猫のひとつであり、
そして、最も砂漠の環境に適した猫でもある。
「幸せに生きるために、隠れて生きよう!というのがスナネコのモットーです」
スナネコ君、君は最も古いサハラの主人(あるじ)、陋屋は似合わない。
見せもの小屋はふさわしくない。
砂漠にたくましく生きてこそスナネコ。
そして、また、サハラで会いましょう!
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