Empreinte de chameau🐪ラクダの足あと
🌴モーリタニア🌙砂漠を旅する🌴 No.33 🐪 加藤智津子
サハラの石、ストロマトライト Stromatolite ①
初めてモーリタニアへ出かけたのは、20年以上前のこと。
ヌアクショットで4WD車(運転手付きの)を借り、アタールから険しいエブニー峠を登って、世界遺産のシンゲッティとウアダンを訪ねた。
その帰路、峠から下りてアタールに戻るとき、台地の色が他とは違うことに気づいた。
道路を挟んで両側に、しばらく続くグレーがかった水色の石の台地は、大砂丘を堪能した後だけに不思議だった。
いつも、疑問を抱きながら幾度も通過していたが、それが「ストロマトライト」であることを知ったのは随分たってからだった。
Photo: アドラール州 Atar 約11億年前のストロマトライト群
ストロマトライト(*1) とは、地球上で最も古い生命の痕跡として知られ、微生物、シアノバクテリアの活動によって形成された岩石をいう。
地球にほとんど酸素がなかった先カンブリア時代(*2)、浅海で太陽の光エネルギーを使い、水と大気に含まれる二酸化炭素から酸素を生成するシステム、光合成を行ったのがシアノバクテリア。
そのプロセスは非常にゆっくりで、酸素はとてつもない時間をかけて大気中に放出された。
酸素の増加はその後の生命の進化や多様性を促し、現代の生態系の基盤を築くことになった。
潮汐や波の作用で、水中の泥や砂の粒子がシアノバクテリアに堆積すると、シアノバクテリアは光を求めて、その上へと成長する。それを交互に繰り返すことで層になり、ストロマトライトという構造物が形成された。
多くは石灰岩で、層状、円錐形、ドーム状、柱状、分岐型など、さまざまな形状や形態を示している。
太古代(*3)の地球風景図(Wikipedia)では、火山が噴火し、隕石が落下し、月はまだ地球の近距離にある。そして、浅海にはたくさんのストロマトライトが盛り土のように描かれている。
そのようにして、シアノバクテリアは約27億年前から活発に活動したとされるが、35億年前のストロマトライトも発見されているようだ。
モーリタニアではアドラール州、アタール及び周辺に、11億年前のストロマトライト層群が集中している。
最初に見たグレーがかった水色のストロマトライトだけでなく、場所によって赤や黄色を帯びたものもある。形態も、当時の海の深さによっても異なる。
これらのストロマトライトから、当時の地球がわかる研究、発表がされてきた。
アドラール州から東のマリ共和国の北西部、アルジェリア南部にかけて北西アフリカ最大の「タウデニ堆積盆地」が広がる。
面積は2,000,000Km2、先カンブリア時代後期(原生代(*4)中期から後期)にかけて形成され、原生代と古生代(*5) の堆積物が6000m以上もの層厚になっている
さらに、その上は新生代第4紀(*6) の地層で、広範囲に砂丘に覆われ、今も砂が押し寄せる。
ところが、アタールからアルジェリア国境に至るまでは、堆積物は非常に少なく、広大な浅海盆だった中原生代の地層がそのまま露出している。
広大な浅海盆に、世界でも最も壮観なストロマトライト層群が存在するのがアタールといえる。
砂漠を旅して遭遇する不思議、とりわけ砂漠の石からは地球史がより身近になっていく。
砂漠の旅は、更に先カンブリア時代へと誘う。_________________________________________________________________________________
(*1) ストロマトライト(Stromatolite / Stromatolithe):古代ギリシャ語の層、地層を意味するstrṓmatos及び、岩石を意味するlíthosに由来する.
(*2) 先カンブリア時代 :地球が誕生した約45.67億年前から、カンブリア紀の始まる5.38億年前まで. 冥王代、太古代、原生代に分けられる.
(*3) 太古代 :約40億3100万年前から約25億年前まで.
(*4) 原生代 :約25億年前から約5.38億年前まで. 古原生代、中原生代、新原生代に分られる.
(*5) 古生代 :約5.38億年前〜約2.51億年前まで. カンブリア紀、オルドビス紀、シルル紀、デボン紀、石炭紀、ペルム紀に分けられる.
(*6) 新生代第四紀 :約258万8千年前から現在までの期間.
✳️ 地質時代における時代区分の詳細は「INTERNATIONAL CHRONOSTRATIGRAPHIC CHART・国際層序年代表」2023/09を参照
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