Empreinte de chameau 🐪 ラクダの足あと
🌴モーリタニア🌙砂漠を旅する🌴 No.27 🐪加藤智津子
② サハラ砂漠へ落下する ― 250万ドル!の月隕石
いつも訪ねるノマドのファミリー、たまたま出会ってお茶をごちそうになるノマドのファミリー、、、よくあることだが、別れ際に女性たちが布の包みを持ってくる。
私とドライバーは「マルシェね」と、目を合わせる。
その中は新石器時代(*1)のヤジリや石器類等で、祖母、母、娘たちが日々、砂漠で拾い集めたものだ。
私は少しずつでも、全員から買ってあげることにしている。現金収入になるし、そう高価なものでもないので、お礼として買う。
そのなかに拾い主も首を傾げる“隕石”が含まれていることがある。
隕石によく似た石(鉱物)だが、一応、後学のために購入、見本として保管している。
いつか!小さくてもいい、砂漠で隕石を見つけたい。
隕石は宇宙から、稀に地球の大気圏を通過して地上に落下する。
大気圏を通過する際、燃え尽きずに地球表面まで到達する確率はごくわずかで、希少な物質といえる。
それでも、サハラ砂漠には隕石がよく落ちる。
数年前、モーリタニア北部の砂漠に落ちた隕石が、250万ドルでオークションに出されたときは話題になった。

Photo:モーリタニア、ティリス・ゼムール州
隕石はこの州の東北部に落下したと思われる. このような残丘がまばらにある砂漠
話題の隕石は、2017年1月、アフリカ北西部のサハラ砂漠で見つかった。
モーリタニア、西サハラ(サハラ・アラブ民主共和国)、アルジェリアの国境地帯だが、隕石の火球の目撃者の記録はない。
同年2月に、世界最大の美的隕石コレクションとして名高い「マコヴィッチ・コレクション」のキュレーターが、モーリタニア人のディーラーから購入した。
その隕石は分析され「月に起源をもつ月隕石」であることが発表され、『Meteoritical Bulletin』に掲載された(*2)。
小惑星が月面へ衝突し、その衝撃で表層が吹き飛んだ月の破片の石であると証明された。
吹き飛んだ石は宇宙空間に放出され、地球を横切る軌道にのり、幸運にも地球に落下することになる。このとき、大気圏では燃えず、大気との衝突によって割れ、隕石雨としてサハラ砂漠へ降り注いだようだ。
総重量は103.770kg。289点あり、最大は10kg以上が4点、10kg以下は2点、1〜4kgは9点、100~500gは31点、小さな破片が多数存在する。
そのなかの13.535kgの「月隕石」が、ロンドンのオークションハウス、クリスティーズで、250万ドル(*3)と表示され、落札された。
なぜ、月の石、月隕石がこのように高価なのか。
1969年から1972年の間にNASAが行った6回のアポロ計画で、月から持ち帰った石は381.7kg。その後、有人の月面着陸ミッションはない。
一方、地球上で発見された月隕石は全隕石の約0.5%で、約650kgしか見つかっておらず(2021年)、その多くが世界の主要な博物館や研究機関に収蔵されていて、一般には触れることはできない。アポロ計画の月の石も公開されていない。
そんななかで、オークションにかけられた月隕石は、現実に、入手可能(お金があれば)であった。
しかも、これまで公開されたどの隕石よりもはるかに大きい、地球上に存在する5番目の大きな「月のかけら」だった。
「月のかけら」は、さらに続く。
その3ヶ月後に、1個(単石)の重量、58.090kgの月隕石が同じ地域で見つかった。
やはり、「マコヴィッチ・コレクション」が、モーリタニア人のディーラーから購入している。
そして、モーリタニアで見つかった総重量が最大の月隕石と、1個の重量が最大の月隕石は、ともにギネス世界記録に登録(Largest lunar meteorite)された。
これらの隕石の見つかった地域は集落もそう多くはないし、住民も少ない。
ときおり残丘が見られるが、フラットな台地が続き、限りなく空は開け、視界は広い。
そんなところに巨大な隕石や隕石雨が降れば、遠目にも見えるはずだし、砂漠を熟知した住民やノマドの目は敏感だ。
砂漠の情報はどんな小さなことでも、一瞬にして伝わる。
アラビア語のニュースでは、2件の月隕石がどのようにして取得され、オークション会社へ到達したのか、発表されていなかったと書いている。
これらの隕石の回収はどのようにされたのだろう。
隕石売買で、ときどき名前が登場するモーリタニア人ディーラーとはどんな人かも気にかかる。
隕石発見には「ノマドから入手」というものが多い。
私の知る砂漠の民たちは隕石のことはあまり知らない。
ノマドのお土産には懐中電灯だけでなく、どんな隕石にでも反応するわけではないが、磁石も追加した方がいいかもしれない。
さておいて、サハラ砂漠から宇宙が見えてくるのも悪くないと思う。
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(*1) 約8000年〜2500年前
(*2) Meteoritical Society(国際隕石学会)で記録され、Meteoritical Bulletinで公表する
(*3) 提示された価格は250万ドルで、当事者同士の売買販売.

月起源隕石: 長石質角レキ岩
13.535kg
小惑星が月面に衝突した際に発生した圧力と熱によって, 月のさまざまな物質の破片が「セメント」状に固まっている
クリスティーズの科学・自然史部門責任者は「重さ13.5kgを超えるこの標本は, これまで公開されたどの標本よりもはるかに大きい. その大きさに圧倒されます. そんな別世界のかけらを手にする経験は決して忘れることができません」と語る.
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