Empreinte de chameau 🐪 ラクダの足あと
🌴モーリタニア🌙砂漠を旅する🌴No.28 🐪加藤智津子
③ サハラ砂漠へ落下する ― 巨大隕石のインパクト(衝突)クレーター
サハラ砂漠に落ちる隕石は「不毛の大地」だから発見しやすいと、Meteoritical Societyのデータベースにも書かれている。
更に昔、今よりも人も村もまばらな時代でも空からの落下物はあったはず。
古代エジプトのファラオ、ツタンカーメン(*1)、埋蔵品のなかに金の短剣と鉄の短剣があった。
鉄の短剣については長い間謎だった。まだ青銅器時代であり、鉄鉱石を扱う製鉄の技術がない時代だったからだ。
その後、隕石から鍛造された刀剣であることがわかってきた(2016年)。
記録によれば、メソポタミアのミタンニ王国(今の北シリアからイラクあたり)で造られ、祖父のアメンホテプ3世(*2)に贈られたものだった。
つまり、空から落ちてきた隕石は「空の鉱物(*3)」として知られていて、隕石を利用していたことになる。さぞ、大きな隕石だったに違いない。
モーリタニアは砂漠ゆえに、もっと古い時代に巨大な隕石が落下した衝突クレーター(Impact crater)が残っている。

Photo: モーリタニア、アドラール州
衝突クレーター(Impact crater)、アウエルゥル・クレーター(Aouelloul・crater)の一部
後方の縁は少しずつ崩壊している
隕石片は発見されていないが、モーリタニアのインパクト(衝突)クレーターとして、以下の3つが紹介される。
アウエルゥル・クレーター、テヌメール・クレーター、テミミシャット・クレーター。
一番有名なアウエルゥル・クレーターは、アドラール州にあり、アタールから南東に50kmほど離れた砂漠のなかにある。
落下したのは300万年(±30万年)前。クレーターの直径は390mと比較的小さく、縁はクレーターの底から53mの高さまで上がっている。クレーター内は砂とシルト(微砂)の層で覆われ、厚さは約23メートル。
この地域はオルドビス紀(*4)の地層で、その砂岩と石英岩に隕石が衝突した。衝撃によって何千トンもの岩石が極度の熱を受け、舞い上がり、飛散した。それらが天然ガラスのテクタイト(*5)となり、周辺に多く発見されている。
調査によれば、このテクタイトに含まれるオスミウム、イリジウム、ニッケルの含有量が、周囲の岩石に含まれる含有量を上回っていることがわかり、インパクトクレーターであることが証明された(Meteoritical Society)。
2つめのテヌメール・クレーターはティリス・ゼムール州にあり、衝突したのは21.400年前(±9.700)、アウエルゥル・クレーターと比べると非常に若いが、巨大だ。
クレーターの直径は約1.9km、底面は約200〜300mの厚さに堆積物が覆い、縁は110mの高さまで上がっている。内側の斜面は非常に急。地球上で最も保存状態の良いクレーターのひとつといわれている。
周囲には岩石の爆裂片とともに、玄武岩に似た岩石が散在しており、古代の火山と考えられたが、隕石の衝突で溶けた岩石であることが判明し、インパクトクレーターとして認知された(Meteoritical Society)。
この地域は約35億年前の片麻岩と花崗岩からなり、風化した鮮新世(*6)の薄い岩石の層が覆う。
先カンブリア時代の非常に硬い岩石を、何千トンも吹き飛ばして溶かすような衝突(爆発)がどれほど強力なものか、想像を絶する。
3つめは、同じくティリス・ゼムール州にあるテミミシャット・クレーター。地名をとって、テミミシャット・ガラマン・クレーターとも言われる。
直径は約700m、クレーターの縁の高さは数メートルから数十メートルだが、大部分が侵食され、分断されている。
常に、インパクトクレーターとしてとりあげられ、その可能性があると考えられる岩石も見つかっているが、決定的な証拠は見つかっていない。今後の研究が待たれるところだが、深い砂漠のなかにあり、容易に行くことはできない。
4WD車で容易に行かれるのはアウエルゥル・クレーター。
地元では「アウエルゥルの穴」と呼ばれ、古くから知られた存在だったようだ。クレーターの縁には、いくつかの古代の墓もある。
300万年も前の隕石衝突を証明するテクタイトを探すのは厳しい。
周辺で、多く見つかるのは石にも見える鉱物類(?)。磁石に反応するものもあり、薄片にして調べると、不思議な構造が見られたが、古い鉄の製錬所のスラグらしい。
アウエルゥル・クレーターは私有地であり、観光客はクレーターの外に車を置き、クレーターの中にテントを張らないよう求められているようだ。
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(*1) ツタンカーメン(トゥトアンクアメン): 第18王朝のファラオ
在位:紀元前1332年頃 - 紀元前1323年頃)
(*2) アメンホテプ3世: 第18王朝のファラオ
在位:紀元前1386年 - 紀元前1349年、または紀元前1388年 - 紀元前1351年
日本では、榎本武揚がロシア皇帝の所有していた鉄隕石を使用した刀剣を見て感動し、「流星刀」を造らせたのは有名だが、玉鋼と混ぜて高温で鍛錬されたもの. 純粋な隕鉄のみで製造された刀剣(隕鉄刀)は最近のこと.
(*3) 空の鉱物: 紀元前13世紀頃から「空の鉱物」と訳せるヒエログラフが存在していた
(*4) オルドビス紀: 約4億854万年前〜4億438万年前
(*5) テクタイト: ギリシャ語の‘tektos’(溶けた)が由来. 高速で衝突した巨大な隕石のエネルギーで、飛散した地表の石や砂などが蒸発気化し、上空で急冷されガラス状に固まったものが落下したと考えられている
(*6) 鮮新世: 533万3千年前〜258万年前

テヌメール・クレーター
ほぼ円形で、巨大なクッキーカッターを岩盤に押し付けたように見える
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