Empreinte de chameau🐪ラクダの足あと
- 加藤智津子 | Chizuko Kato
- 2022年10月18日
- 読了時間: 5分
更新日:2023年3月2日
🌴モーリタニア🌙砂漠を旅する🌴No.25 🐪加藤智津子
モーリタニアの砂漠道路を行く
モーリタニアの舗装道路はずいぶんと増えた。
その昔は首都、ヌアクショットから北のアタールまでの450kmと、ヌアクショットから南東のネマまでの希望道路の1100kmだけだった。
北のアタール方面へ行く道路は国道1号線、一番使われている。
希望道路(*1)も重要な道路で、モーリタニア南部の西から東をほぼ直線で結び、人々を繋いでいる。
道路はアスファルト、1970年代にブラジルの企業によって始められ、1985年にようやく開通した。
しかし、隣接するセネガルとマリを往来する大型トラックの運行も多く、またサヘル地域のため、集中豪雨や洪水も多い。
それゆえに、道路の損傷はひどく、常にどこかで修復工事(*2)をしている。
この道路を「長澤商店」と書かれた軽トラックが横切ったときには驚いた。こんな西アフリカまで、どのようにして来たのだろうと、、、、、

Photo:モーリタニア、アドラール州 ピスト この轍は数年間は残る
やはり、砂漠を旅するには、北部のアタールへの道を行くことが多い。
アタールから、さらに北へ111km、シュームへ向かう。
今では2時間半ほどで行くことができるが、以前はピスト(未舗装道路)で、すれ違う車も少なく、移動にも時間がかかった。
そんなころ、シュームへ向かって、我がランドクルーザーはピストを走行中だった。
ストロマトライトのあるクサル・トローシャンに立ち寄り、アドラールの高台から2つの崖を降りてしばらく行くと、巨石群の続くアムサガ台地となり、辺りは古い花崗岩のグレーの色に変わっていた。
突然、車が止まった。
調子が悪いのかな?でも、いつもすぐ動くはずだから、大丈夫でしょうと思った。
だが、そのときばかりは違った。
車のメカニズムについて熟知している運転手としては、なんとなく様子が違う。
時間がかかりそうに思えたので、私はカメラを持って車を離れ、周辺の花崗岩の台地を歩くことにした。
そこには花崗岩を割って、実をつけた数本のジュジュビエ(*3)の木が生えていた。
小さな実にしては種が大きいが、甘みがあって美味しい。たまに売られていることもある砂漠の少ない果実だ。
せっかくだから、その実を採ることにした。
車の方を見ると、今回ばかりはかなり厳しそうに思える。
いろいろなことが頭のなかをめぐる。
もしかして、故障はなおらない→ 引き返す→ 車が動かないのにどうやって?→ 引き返したとしても私の旅は?
私は不安を紛らわすために、靴の底で棘のある枝を抑えて、ジュジュビエの実の採集に専念することにした。
そうしているうちに、20分ばかり経っただろうか、反対方面からやってきたトヨタハイラックスが止まり、民族衣装のブーブー(*4)を着た男性がランドクルーザーへ向かって行くのが見えた。
その男性は開いたボンネットを覗き込んで、我が運転手と何か話しながら、手をのばしていた。
私はそちらをチラチラ見ながらも、ポケットにジュジュビエの実を詰め込んでいた。
10分も経っていなかったかもしれない。
運転手が「フィニ、フィニー」と手をあげ、私を呼んだ。
終わり?もしかして走行することは出来なくて、これで終わり?戻る?
私が近づいたときにはその男性はハイラックスを運転し、去って行った。
「完璧、終了だよ」
私たちの車はすぐ出発し、運転手は興奮気味に話すのだった。
あのハイラックスの男性はサッと見て、何ヶ所かを触り、いとも簡単に修理したという。
そのはずで、彼はモーリタニア・トヨタのテクニシャンだった。
その日、すれ違った車は2台だけで、そのうちの1台にモーリタニア・トヨタのテクニシャンが乗っていた!
日本ではトヨタといえば巨大企業だが、モーリタニアでは首都のヌアクショットとヌアディブ、ズエラットに販売会社があるだけで、テクニシャンだってそう多くはないはず。
これを「砂漠のミラクル」と言わずして、なんと言おうか。
その後、私たちはそこを通るたびに「ここだったわね」、「いや、もう少し、先」、「あ、ここ、ここね」と声をあげるのだった。
そして、私の目はジュジュビエの木を探す。
ちなみに、砂漠での車のトラブルに関しては誰もが助け合う。
私たちも、何度も、助けたことがある(助けるのは運転手だけで、私は見守るだけ)。
ノマドたちの車が立ち往生していたときも、大勢いたので大丈夫だろうと通過したものの、やはり気になると戻ったこともあった。
砂漠で困っている場合はお互いさまで、それに対して謝礼とか報酬を求めることはない。
これが砂漠のルール。
舗装道路は全てを快適にする。
人の往来も、物流もスムーズにできなかったこれまでの砂漠の生活も向上する。
でも、私は幹線道路から外れ、ビバーク地を探しながら、ちょっと素敵なところを発見する心ときめく砂漠旅をもう少ししたい。
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(*1)希望道路 La Route de l‘Espoir
モーリタニアの国道3号線. モーリタニアはヌアクショットを除くと、10のウィラーヤ(州)があり、この道路はそのうち、5つのウィラーヤを通過している.
(*2) 修復工事
「 La Route de l’Espoir ou du Désespoir (希望の道か、絶望の道か)!」と言われるほどに、修復工事は進んでいない. いろいろと、内政問題もある.
(*3) ジュジュビエ( jujubier sauvage)
砂漠の野生のナツメ. アカシアと同様に、地中深くても水があれば、根付く. 樹高は50センチほどの低木から数メートル. ジグザグに曲がった枝に丸い小さな葉をつけ、その基部には鋭い棘があるが、ラクダやヤギは好んで食べる. 小さな実は球形の核果で、熟すと茶色になり甘くなる.
(*4) ブーブー(Boubou)
アラビア語ではDaraa(الدراعة). 白か青のたっぷりとした厚めの綿布で作られ、簡単に言えば貫頭衣風で、服の上にかぶる. 両肩に布をたくしあげて着る. ポケットが前に付き、刺繍が施されている.
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