Empreinte de chameau🐪ラクダの足あと
- 加藤智津子 | Chizuko Kato

- 12月15日
- 読了時間: 4分
🌴モーリタニア🌙 砂漠を旅する🌴 No.35 🐪 加藤智津子
ラクダレース:シンゲッティ・フェスティバル
久々に、シンゲッティ・フェスティバル(*1)に行くことにした。ラクダレースも、見たかった。
ヌアクショットを出て、アタールへ。日常ルートを使えば、アタールからシンゲッティまで100km弱、急勾配の上り坂で難所のエブニー峠を除けば、平坦な道をほぼ一直線に走る。
かねてから計画されていた道路の舗装工事の準備が始まっていた。
鉱物資源の高騰で、金、鉄、銅を産するモーリタニアは経済が上昇しつつあり、その勢いで、観光業へも力が入っている気がする。世界遺産、シンゲッティへの観光客誘致のためにも、道路の改善は必須だ。
完成すれば、これまで走り続けてきた「砂が舞い上がる道」は、今回が最後になるかもしれない。
ドライバーはいつものように、何台も車を追い抜き、後方が見えなくなるほどに白い砂を巻き上げた。

Photo:シンゲッティのワジ(*2)でスタートを待つラクダ
フェスティバルは、大がかりなイベント会場が設営されていた。巨大モニターからは大統領や来賓が参加する式典の様子が映し出されている。
物品を売る人たちが熱い声でお客を呼び込む。人も多い。
ラクダレースはフェスティバル最大のイベントで、旧市街と新市街を分けるワジ(*2)がコースになる。
車でスタート地点まで行くと、すでに参加の走者たちはスタンバイしていて、大型カメラを持った人たちが集まっていた。ほとんどの観客は到着地点にいるので、外国人はほぼ、いない。
20分ほど経っただろうか、スタートは音もなく、一瞬だった。
両側で待機していた来賓客の車も一斉に走り出した。一団は砂を舞い上げ、瞬く間に砂煙の彼方に消えていった。
のちに知ったのは、「モーリタニア・ラクダレース連盟」があり、この数年間に、「モーリタニア国際ラクダレース選手権」が幾度も開催されていたことだった。
2025年3月開催の「第3回ラクダレース共和国大統領杯」には445名の選手が出場し、そのなかに女子の部もあり好成績をおさめた、とある。
遊牧民たちが素朴に競うのではなく、スポーツになっていた。彼らの着用していた薄手のブーブー(*3)は、競技用だったのだ。
そして、モーリタニアの文化芸術コミュニケーション関係省は、以下のように述べていた。
「ラクダレースは単なるスポーツではなく、むしろこの国の国民的アイデンティティと文化的遺産を体現するものである。なぜなら、ラクダは祖先の生活に不可欠ない存在であった。ラクダは常に旅に同行し、その背中に乗って私たちの祖先が百科事典のような広く、深い知識を得、それを伝え、文明をも築いてきた」と。
サハラ砂漠ではラクダの隊商によるサハラ交易(*4)が行われた。砂漠産出の岩塩と西アフリカの金の交換が有名だが、様々なものが行き交った。「もの」だけでなく、知識や情報もあっただろう。
交易ルートの中継地には「クスール(*5)」と呼ばれる集落が築かれ、モスクができ、宗教、教育、文化の中心地として発展した。交易で利益を得た人々は教養を身につけるために多くの本を買い求めた。それらが現在、モーリタニアの4つのクスールにあるたくさんの図書館(*6)に収められている。
次の世界遺産フェスティバルは、2025年19日から23日までウアダンで開催とのこと。
随分と前、中止になった年があったが、予定していた女性の歌い手に特別に歌ってもらい、ウアダンで冬の休日を過ごすために集まった友人たちと聞き惚れ、盛り上がって踊った。翌年の開催では、ウアダンらしい素朴で楽しいフェスティバルだったことを思い出す。
今年はどんなだろう?
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(*1) シンゲッティ・フェスティバル: モーリタニアの世界遺産で順次開催、2024年はシンゲッティ
(*2) ワジ: 砂漠の砂は水が浸透しないため、大量の雨が降ると河川となり、ときに激流になるが、乾季にはただの乾いた地形になる
(*3) ブーブー(ダラア / الدرّاعة ): 男性の民族衣装
(*4) サハラ交易 :12世紀から16世紀にかけてが盛ん
(*5) クスール( قصور / ksour): 単数形はقصر / ksarで、オアシスに栄えた伝統的村落をいう. 「シンゲッティ、ウアダン、ティシット、ウアラタの古いクスール」として世界遺産になっている
(*6) 図書館: ウアラタの図書館が一番整備されている
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